うつ病における手綱核の役割

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うつ病と神経回路

~手綱核過剰活性化によるうつ病モデルマウスの開発~

現在の薬物療法によるうつ病の寛解率は約15〜40%に留まっており、このような治療抵抗性の難治性うつ病では自殺等のリスクが増加するため、その病態解明は急務です。

手綱核はセロトニンなどのモノアミン神経系の制御中枢であるが、近年うつ病患者で手綱核の病的血流増加がみられる事等からうつ病の原因病巣候補として注目を集めています。しかし、手綱核過剰活性化とうつ病の因果関係は未だ不明のままです。

私達のグループは「手綱核過剰活性化がうつ病様症状を引き起こす」という仮説を検証するため、薬理学的・遺伝学的にマウス手綱核の過剰活性化を引き起こした動物を作成し、うつ病モデルマウスとしての妥当性について行動学や生理学の手法を用いて研究しています(Cui et al., J Neurosci, 2014)。

また、最近ではこのような手綱核の活性化に嫌な出来事や失望体験がどのように関わるかを調べています。特に神経細胞の働きを左右する細胞外環境を形成するグリア細胞の役割に注目しています。実際、慢性ストレスによりうつ病のような行動を示すマウスの手綱核を調べたところ、サイトカインと呼ばれる液性因子が多く産生されていて、炎症性細胞が多く動員されていました。その分子的背景を調べると、Pcsk5という細胞外基質の再編成に関与する遺伝子の発現が増えていました。この遺伝子の働きを抑えるとうつ病のような行動が起きにくくなることも明らかとなり、ストレスが動物行動を制御する手がかりをつかみつつあります。

脳の神経炎症がうつ病のような行動に関与

広島大学プレスリリース:脳深部の炎症を引き起こすうつ病関連遺伝子 PCSK5 を発見

この他にも、ヒト手綱核の機能を機能的MRIにより明らかにする共同研究や、光遺伝学・ゲノム編集など最新の技術を駆使し、うつ病の背景にある神経回路の異常をしらべています。

学習におけるヒト手綱核の新たな機能を発見

ゲノム編集・光遺伝学で明らかにする脳内ドーパミンの新機能 ~ストレス対処における役割〜

相澤 秀紀
相澤 秀紀
教授

宮城県出身、博士(医学、千葉大学大学院)。精神科での経験を背景に神経解剖学・生理学を活かした研究で疾患の病態生理に迫りたい。