左右の脳半球の相互作用を解明

半田助教とZhangさんが、左右のマウス大脳皮質が相互作用する機溝を解明し、論文発表しました。

Handa T, Zhang Q, Aizawa H. Cholinergic modulation of interhemispheric inhibition in the mouse motor cortex. Cereb Cortex. 2024 Jul 3;34(7):bhae290. doi: 10.1093/cercor/bhae290. PMID: 39042031. [Link]

脳の構造の多くは左右一対になっており、お互いに役割分担し、情報交換することで機能を発揮すると考えられます。例えば、特定の運動に対応する機能を大脳の片側のみに担当させることによって、冗長性を排除し、脳のリソースを効率的に使用することができます。特に片方の手足を動かすときに、反対側の大脳半球を活性化し、同側の大脳半球を抑制する機溝は、「半球間抑制」と呼ばれ、効率的な運動機能の実行に重要です。しかし、左右の半球がどの様に役割分担し、お互いに情報交換するのかは、未だ不明なままです。

この問題に取り組むため、私たちは、右前肢を前方に伸ばして餌を掴む課題を遂行しているマウスの大脳活動を調べました。解析の結果、マウスが課題を遂行し始めると、左右大脳皮質にある神経細胞がより同期して活動し始めることが初めてわかりました。さらにこのような左右半球の協調活動における神経伝達の影響を薬理学的に調べたところ、大脳基底部に由来するアセチルコリンが、半球間の相互作用を抑制することが明らかとなりました。左右の大脳皮質半球間の相互抑制的な制御は、抑制性神経伝達物質であるGABAをもつ介在細胞によって担われると考えられます。実際、本研究における遺伝子発現解析では、大脳皮質の介在細胞の一部にムスカリン型アセチルコリン受容体(M2 receptor)が特異的に発現していました。

研究成果のまとめ

これらの結果は、運動時に左右の協調活動が増強され、半球間抑制を介して片側肢の効率的な運動を可能にしてる可能性を示唆しています。また、このような左右半球の相互作用を修飾する神経伝達物質としてアセチルコリンを新たに同定しました。アセチルコリンは、運動学習における促通効果や老化に伴う分泌量低下が示唆されており、今後左右半球の相互作用を介した新たな神経機構の解明が期待されます。

相澤 秀紀
相澤 秀紀
教授

宮城県出身、博士(医学、千葉大学大学院)。精神科での経験を背景に神経解剖学・生理学を活かした研究で疾患の病態生理に迫りたい。

半田 高史
半田 高史
助教

ドイツ留学から帰国後に広島大学助教として参加。行動中の動物から神経活動を記録する電気生理学を専門とし、その理論的解析にも重点をおいて研究を展開しています。

Qing Zhang
Qing Zhang
大学院生

Zhangさんは中国からの留学生で片頭痛や外傷などの神経疾患における病的な脳の興奮性について研究しています。