進化的に保存された神経興奮の波:ゼブラフィッシュで拡延性脱分極を確認

Photo by Katherine Hanlon on Unsplash

外傷性脳損傷や脳卒中では脳の一部で神経細胞死や虚血が引き起こされます。しかし、さらに悪いことに、これらの障害を受けた細胞からは興奮性物質であるグルタミン酸やカリウムイオンが細胞外に放出されてしまいます。これにより周辺の細胞が波紋のように興奮し、その回復には多くの血流供給が必要なため、さらなる脳虚血を引き起こしてしまうのです。このようにして病変は局所から周辺部へと広範囲に広がり、助かるはずの脳組織さえも障害を受ける可能性が高まります。

拡延性脱分極とよばれるこの現象は、臨床医学における重要性とは裏腹に、分子生物学的な研究が進んでいません。この問題に取り組むために、当研究室の大学院生寺井はるひさんは、遺伝子操作や薬剤探索に有用なモデル動物ゼブラフィッシュに注目して、新たな実験系を確立しました。具体的には、電機生理学を応用してゼブラフィッシュの視蓋という脳部位の興奮性を調べ、我々哺乳動物と同様の特性を持つゼブラフィッシュ脳波の測定に初めて成功しました。

Title: Electrophysiological and pharmacological characterization of spreading depolarization in the adult zebrafish tectum

Authors: Haruhi Terai, Mayeso Naomi Victoria Gwedela, Koichi Kawakami, Hidenori Aizawa

Journal: J Neurophysiol (2021) in press [Link]

この独自に開発された実験系では、薬理学を用いて興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸とその受容体が、拡延性脱分極の伝搬に重要であることも明らかとなりました。ゼブラフィッシュでは、ヒト神経疾患の原因遺伝子を欠損した動物を作成することが容易で、多くの治療薬候補物をスクリーニングするのに優れた動物です。今回の研究成果を受けて、我々はゼブラフィッシュを用いた拡延性脱分極の治療薬開発に取り組む予定です。

相澤 秀紀
相澤 秀紀
教授

宮城県出身、博士(医学、千葉大学大学院)。精神科での経験を背景に神経解剖学・生理学を活かした研究で疾患の病態生理に迫りたい。

寺井はるひ
寺井はるひ
製薬研究者

広島大学大学院でゼブラフィッシュによる独自の実験系を開発し、脳卒中や片頭痛の基盤となる脳の興奮性の機構を研究しています。

Mayeso Naomi Gwedela
Mayeso Naomi Gwedela
講師

アフリカのマラウィ出身の大学院生。母国のてんかん治療がハーブ医学により支えらていることに注目し、ハーブの抗てんかん効果についてゼブラフィッシュを用いて研究しています。