マウス行動解析のオープンソースシステムを独自に開発

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ホームケージにおけるマウスの自発活動は神経回路の役割や病態モデルの機構を調べる上で重要な手がかりです。特に、輪回し行動は夜行性動物であるマウスの日内リズムや運動へのモチベーションを調べる上で重要な指標として古くから研究されてきました。しかし、現在販売されている測定機器の多くは、記録装置やデータ保存用のPCを動物施設内に設置する必要があり、使用できる研究環境が限定されています。

この問題に取り組むため、当研究室の大学院生・朱さんは、測定やデータ保存を可能にする小型の機器を独自に開発しました。名付けて Wheel-Running Activity acQuisition system (WRAQ)。WRAQは小さなマイクロコントローラと呼ばれる部品が中心となり、照明の情報や温度、マウスの輪回し行動を測定し記録することができます。充電可能な内蔵バッテリにより30日間以上稼働することができ、長期間に渡るマウスの行動解析を可能にしました。実際、敗血症のモデルマウスをWRAQで解析したところ、体重減少と一致した活動量の変化を定量的に評価することに成功しました。

Zhu M, Kasaragod DK, Kikutani K, Taguchi K, Aizawa H. A novel microcontroller-based system for the wheel-running activity in mice. eNeuro. 2021 Sep 3:ENEURO.0260-21.2021. doi: 10.1523/ENEURO.0260-21.2021. Epub ahead of print. PMID: 34479979. [Pubmed]

研究では、WRAQをさらに進化させてWiFi機能を追加することで、研究室にいながら動物実験施設でのマウスの行動変化をオンラインで監視できる機能を加えました。WRAQ-WiFiと名付けたこの装置は、Internet of Things (IoT)に用いられるmicrocontrollerを応用して、オンラインサーバーへと環境情報やマウス行動データをアップロードします。研究室のPCからオンラインサーバーを参照することにより、現在や過去のマウス行動データについてモニターすることが可能です。この技術は、効果的な薬剤投与などの治療介入のタイミングを調べるのに有用です。実際、体内時計をオンラインデータから類推し、タイミングを見計らって薬理遺伝学的な神経回路操作を行うと、マウスの脳内時計を人為的にずらすことに成功しました。

Wheel-Running Activity acQuisition system (WRAQ)

今回の研究成果は、ハードウェアの設計や解析ソフトにオープンソースの技術を採用することにより、その実装方法が全て公開されています。このようなオープンソースアプローチは、研究の再現性や透明性を担保するために重要であることが度々指摘されており、現在の神経科学における新たな潮流の一つとなりつつあります。今回の研究を通して得られた開発技術は全て公開リポジトリーで広く公開しています(https://github.com/neurobio-hiroshima/WRAQ/)。今後、公開した技術を世界中の研究者と議論することにより、研究が発展するものと期待しています。

相澤 秀紀
相澤 秀紀
教授

宮城県出身、博士(医学、千葉大学大学院)。精神科での経験を背景に神経解剖学・生理学を活かした研究で疾患の病態生理に迫りたい。

Meina Zhu
Meina Zhu
Postdoc

中国で神経内科医として活躍後、広島大学大学院でうつ病の分子機構を研究し、学位を取得しました。

Deepa Kamath Kasaragod
Deepa Kamath Kasaragod
助教

イギリスで光学の研究により学位を取得し、新しい顕微鏡の開発研究を行っています。現在、脳の神経回路の三次元的可視化を行う顕微鏡を開発中です。