集中治療の続発症としての精神医学的問題

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ICUで集中治療を受け、敗血症などから生還した患者は、ときに集中力の低下や不安・抑うつなどの精神医学的続発症に悩まさます。このような精神医学的問題は筋力低下などの身体的問題と共に集中治療後症候群(post intensive care syndrome,PICS)として注目されているものの、その病態には不明な点が多く残されています。

最近の研究結果によると感染や手術などは全身ストレス要因として脳に作用し、炎症反応を引き起こすことが知られています。このような神経系の炎症は不安や抑うつを引き起こす可能性があり、その病態解明が待たれています。具体的にはサイトカインという炎症を増悪させるタンパク質や活性酸素などが炎症のメディエータとして考えら、グリア細胞がその産生源と考えられます。

私達の研究室ではこの問題に取り組むため、広島大学の救急医学・集中治療医学講座と共同で研究を進め、脳のミクログリアが発現するTSPOというタンパク質が病態に関与しているという仮設に至っています。

K Kikutani, H Giga, K Hosokawa, N Shime, H Aizawa, Microglial translocator protein and stressor-related disorder. Neurochem Int (2020), in press [Link]

neuroinflammation and TSPO

実際、慢性ストレス下にあるマウスでは、TSPOのタンパク質発現が上昇しています。また、培養細胞に炎症反応を惹起するとTSPOタンパク質の発現が誘導され、炎症反応を増悪させるサイトカインの産生が増加しました。小野薬品工業と共同で調べたTSPO阻害薬ONO-2952は、マウスに投与すると抗うつ効果や抗不安効果を発揮することを見出しており、ストレス因関連障害として発現する集中治療後症候群の病態にTSPOが関与している可能性があります。

これらの論点や最近の知見をまとめて論文発表し、今後の研究によりさらに検証を進めていきます。

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相澤 秀紀
相澤 秀紀
教授

宮城県出身、博士(医学、千葉大学大学院)。精神科での経験を背景に神経解剖学・生理学を活かした研究で疾患の病態生理に迫りたい。

菊谷和也
菊谷和也
助教

救急医学の臨床の傍ら、大学院生として集中治療における神経炎症の役割について注目して研究を進めています。

儀賀普嗣
儀賀普嗣
医長

救急医学の臨床の傍ら、当研究室で学位を取得しました。集中治療室での治療が必要になる敗血症で問題になる神経炎症について分子生物学的な研究を行っています。