現在使われている抗うつ薬では約4割の患者で無効であったらい再発を繰り返すことから新しい治療薬が待望されています。現在の抗うつ薬はセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の代謝に作用するものがほとんどですが、この作用機序に基づく治療薬開発は飽和しつつあり、新たな創薬標的が不可欠です。
脳の微細な炎症は、様々なストレスにより引き起こされ、うつ病など多くの精神疾患の病態に関与することがわかってきました。私達はセロトニン神経系の高次中枢である手綱核に注目し、慢性ストレス負荷によりうつ病様異常を示すマウスの脳を調べたところ、うつ病様異常と相関して発現が上昇する遺伝子Pcsk5を発見しました。
興味深いことに、この遺伝子のコードするタンパク質は他のタンパク質に作用し、神経炎症を増悪させました。また、末梢の炎症細胞が脳内に迷入することも促進しており、炎症反応を引き起こす起点になっている可能性があります。実際、この遺伝子を抑制したマウスを作成したところ、ストレス負荷による神経炎症を抑えることができ、うつ病様行動異常も改善させる事ができました。 これらの成果をまとめて論文発表し、広島大学および日本医療研究開発機構からプレス発表を通して国民に広く発信しました。
Our publication in the Neuropsychopharmacology
Press release from Hiroshima University
このような抗うつ効果につながるPcsk5の働きは、この遺伝子が神経炎症を起点とした新たな創薬標的になる可能性を示唆しています。今後の研究によりPcsk5に作用する抗うつ薬の開発に取り組むことで、これまでにない抗うつ薬のカテゴリを切り開く大きな波及効果を持つと考えられます。
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